パン屋開業・運営の情報発信をはじめて3年目となりました。
伝え方もずいぶん変わってきたので、過去の内容をときどき『改訂版』として情報をアップデートしていきます。
今回は「食物アレルギー」について、改めて解説します。
パン屋がアレルギーを解説するのではなく、わたしの場合は自らが重度の卵アレルギー。
普段どんなことに気をつけていて、どういった感じでお店に行くのかなどもお伝えしながら基礎知識をまとめていきます。
アレルギーは甘くみてはいけません。知って対策して、お客さんもお店も守っていきましょう。
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食物アレルギーの基礎知識
厚生労働省の資料を参考に解説していきます。
日本では現在、3人に1人が何かしらのアレルギーをもっていると言われています。
最近はさまざまは食品でアレルギーが認められるようになり、以前ではみられなかった果物、野菜、芋類なども報告されています。
食物アレルギーの状態を言葉でまとめると「摂取した食物が原因となり免疫学的機序を介して、蕁麻疹・湿疹・下痢・咳・ゼーゼーなどの症状が起こること」だそう。
アレルギーは「過敏症」と訳され、免疫反応の1つであり、体に入った異物を排出するためのメカニズム。
アレルギーを起こしやすいものは動植物由来の”タンパク質”がほとんどといわれています。
食べ物などが全てアレルギーを起こすというより「食べ物に対して人間側が反応を起こしてしまう」わけで、個人差がどうしても出てくる現象なのですね。
さてみなさま、嫌になってきましたか?w
わたし医療系に進学&勉強大好きだったので、この手の話をはじめるととてもマニアックになります。
なので自分の手でそれは止めることにします。
ここまでで大切なのは『アレルギーには個人差があるよ』ということ。
アレルギーのメカニズムをお話ししたいところですが、パン屋を運営するにあたりメカニズムを知っていても、特に何かあるわけではないので細かい部分は割愛します。
大事な部分をかいつまんでいくので、頭の片隅に残しておいてくださいね。
メカニズムをざっくりまとめるとこんな感じ(前述の厚生労働省の資料より)。
- 人間の身体の中にはIgEという抗体が存在する
- これが特定のモノに反応することでアレルギーが起こる
- 抗体と抗原(反応が起きる細胞)が出会い、症状が出る
花粉症ならスギやヒノキ花粉、動物なら犬や猫の毛など、人によって反応するものは違いますよね。
アレルギーの症状は以下のようなものがあります。
詳しくはこちらをご覧ください(前述の厚生労働省の資料より)。
アレルギーには種類があります。
- 即時型アレルギー反応
- 遅発型アレルギー反応
即時型アレルギーは食物を摂取した直後から2時間くらいでアレルギー反応を認めることがほとんど。
給食を食べた直後に蕁麻疹が出て……という話を聞いたことがあると思いますが、食べてすぐ症状が出るのは「即時型」です。
こちらは乳児期から発症していることも多く、年齢とともに緩和していくこともあります。
これは年齢が上がるにつれ、免疫機能が出来上がっていくのが関係しています。
対して「遅発型」はまだメカニズムが解明されていません。食物を摂取してから数時間後に症状が認められます。
ちなみにわたしは「遅発型」。これがね、厄介なんですよ。
気付いたときには食べ終わっていますので、口にしてしてしまった段階で絶対に症状から逃げられないのです。だから必死こいていつも聞き回っているのです。
卵を摂取して3時間後からお腹がギュルギュル。そのあとは3時間にわたり嘔吐・下痢。血圧低下など、それは大変なことになります。
が、3時間耐えるとケロッと治ります。
血液検査をしてもアレルギーの数値は出ません。
不思議なアレルギー反応ですよね(めんどくさっ)。
しかも大人になってから(妊娠を機に)発症したので、とても珍しいことだそう。変なところで運を使うなってハナシw
食物アレルギーは「アレルゲン」が原因となり発症します。
令和4年度の消費者庁の調査によると「即時型食物アレルギーの原因食物」はこんな感じ。
意外や意外。くるみなどの木の実が3位ですって!
そのため、近年「くるみ」が特定原材料に追加されました。
現在、消費者庁が公表しているアレルギー表示についての資料がこちら。
文字量がやべえですねw要約します。
この資料で大切なのは「特定原材料等」という部分。販売する上でお客さんに知らせる義務がある原材料です。発症頻度だけでなく、症状が重篤になりやすいため表示が義務となっています。
「特定原材料に準ずるもの」は特定原材料ほどではないけれど、気をつけるべき品目と定められており、表示は任意。
表示については以前記事にしておりますのでご覧ください。
一旦アレルギーの知識はここまでにしますが、なんとなく「結構大変なことなのね…」と伝わりましたでしょうか?
次の項目では卵アレルギー持ちであるわたしが、普段どんなことを考えながら生活しているかをお伝えしていきます。
アレルギー持ちの行動心理
ダダダっとアレルギーの基礎知識を説明しましたが、「結局のところ何がどう大変なのよ?」と思いますよね。
そこでわたしの出番であります(ドヤァ)。
3つの場面のお話をしましょう。
料理をするとき
卵を触ることはできるので、オムライスやだし巻き卵は作ります。
唐揚げ、ハンバーグなどは卵を使わず調理。ホットケーキも卵は使いません。
ちなみに家族がオムライスを食べる日は「オム」はおりませんので、わたしだけただのチキンライス。
卵は鶏なのでチキンはどうなの?ということですが、卵のタンパク質がダメなだけで鶏肉は食べられます。
基本的にわたしが料理をするので自分の料理には卵は使わないよう意識。
割と対処はしやすいですね。
ただ親族の集まりなどではかなり食べるものが限られます。
いやそれより気を遣わせるのが辛い。
すき焼きは箸を変えてもらったり、自分だけほぼ牛丼なので飽きやすいw
味変ができないんですよ。
サラダのドレッシングなどもその都度聞かないといけないので、「申し訳ないな」と思っております。
外食をするとき
外食はなかなか大変です。
例えばマクドナルド。
基本「ダブルチーズバーガー」しか選べません。いっつもダブルチーズバーガーセット(食べれるだけいいと思ってますが……)。
大人になってからのアレルギー発症なので、他のバーガーも食べたいんですよ。悔しい。
学生のころは他のも食べてたんです(涙)
他にはスターバックスコーヒー。
こちらは飲み物はほぼ飲めるのですが、食べ物が結構選択肢が少ない。
食事系だと「ハム&マリボー」一択。
サラダサンドみたいなのはマヨネーズが入っていて食べることはできません。
スイーツはチョコスコーンとノーマルなドーナツはいけます。あとはほとんどダメ。
先日大阪に行きましてね。
お昼ご飯を食べるお店を探していたのですが、いわゆるデパートの最上階の飲食ゾーン。
オムライス・揚げ物・ハンバーグなど卵の雰囲気がムンムン。
パスタも生パスタは大抵入っています。
15分ほどかけて一周して、有名なピザ屋さんに尋ねると「粉チーズに卵を使っているので、違う粉チーズにしますね」と配慮していただけました。
取り分けも結構難易度が高いですが、大きなお店ほど専門知識を持っているので融通を利かせてもらえます。
結婚式なども別メニューにしてもらったり。
ときどき卵を使っているメニューはナシで提供しますねと言われて、半分以下になることもあります。もはや「食べられるだけ幸せ」と思うようにしていますw
旅行にいくとき
旅行はホテルや旅館ではかなり配慮してもらえます。事前に伝えておく必要があります。
旅行に行き、近所にある個人の飲食店に行くと大抵の場合「ん?」という反応をされます。
以前、お肉につける味噌に卵が入っているか聞いたら「だーいじょうぶ!んなもんないない!」と軽くあしらわれました。
ちょっとムカついたのもありますが、卵が入っていたら自分が困るので「確認して注文して症状出たら大変ですけど大丈夫ですか?」と念を押したら確認してくれました。
なんと卵使ってたんですねぇ。
おっさん!いい加減にしろ!と思いましたが「よかったー!ありがとうございますー」と笑顔で返しておきました。
今後海外旅行にも行くのですが…懸念は卵アレルギーだけであります。
翻訳アプリを片手にがんばります。……とこんな感じでなかなか生活もめんどくさい。
卵白がね、密かに使われていることが多いんですよ。
どこに入ってるの!?ってもの、ありますよね。
パン屋のパン生地は80%は卵使用。なのでコンビニパンは買えません。
無添加!と書いてあるパンも、生地に卵を使っていたらわたしからしたらめっちゃ添加w
実は米粉パンや米粉クレープなど小麦アレルギーの方の味方にはなりますが、生地に卵が使われているのでわたしは食べられません。
それで自分が食べるためのパンを焼いている、みたいな側面はあります。
どうでしょうか。アレルギー持ちの苦悩が多少は伝わりましたでしょうか。
とはいえ「気持ちはわかるけど聞かれたらどうしたらいい?」になりますよね。
お客さんはもちろん、ご自身のお店を守るためにも対処法は考えておきましょう。
次の項目で解説します。
アレルギーについて聞かれたら
この項目では実際に聞かれる場面を紹介します。これまで多かったのはやはり卵と牛乳でした。
ときどきナッツ類もいらっしゃいます。割合がそのまま反映されている感じですね。
回答を参考にしながら、今後に活かしてみてください。
このときポイントがあります。
背伸びをせず、無理なものは無理と言ってください。
アレルギー持ちの方は断られることは日常茶飯事。
運よく「買えたらいいな」「食べれたらいいな」という気持ちで声をかけてくれています。
慣れていないし、よくわかっていないのに「大丈夫です!できます!」と言って対処ができなかったとき、責任持てませんよね。
だから卵を使っているなら言えばいいし、牛乳を使っているなら正直に言ってください。
ガックリはしますが、怒りません。慣れっこですから。
そのお客さんを見て「アレルゲンを含まないメニューを考えようかな」と思ったならそうしたらいいのです。
大前提「美味しいものを提供する」のが飲食店。
そりゃみんなが食べることが出来たらハッピーですが、無理に使わないようにして味が落ちたら本末転倒。
”自分ができること”でいいのです。それをぜひ覚えておいてください。
大抵の聞かれ方はこんな感じです。
すみません、卵アレルギーがあるのですがこのパンには卵使っていますか?
わたしも外食のときによくこう聞きます。
生地にゴリゴリ使っていたら「すみません、卵使っています」と返答でオッケー。
使っていない場合の方がポイントです。
アレルギーにもレベルがあります。
なのでまずはアレルギーの程度を聞いてみます。
どのくらいのアレルギーでしょうか?
この質問だけでアレルギー持ちさんはちょっと安心します。
「あ、この人アレルギーのこと少しは知っているな」と。
ここで「え?え?」ときょどられると不安になります。マジで。
するとお客さんはおそらくこう答えてくれます。
「多少なら食べることが出来ます」
「負荷試験受けているところです」
「つなぎもダメなので完全除去です」
そしてこう伝えます。
「同じ調理場で卵を使用しています」
「道具は洗浄していますが、共有しています」
その上で購入するかをお客さまにお聞きします。
ここまで伝えることでアレルギー持ち側としては「食べるときは自己責任だから」と思えます。
もしこのやり取りに不安があるなら、しっかり気持ちは伝えましょう。
そもそも期待して聞いていませんから、モゴモゴされるよりきっぱり諦められます。
この一連の流れを覚えておいてください。
普段から対策できること
パン屋としては自分の愛するメニューをたくさんの人に食べてもらいたいですよね。
その上で対策できることはしておきましょう。
大きく分けるとこの3つ。
- 知識を持ち、対応できるようにする
- 食品表示について理解をしておく
- ラベルプリンターで表示を明確にする
上2つはここまでで解説をしました。
この項目では食品表示の中でもラベルプリンターに照準を絞ります。
食品表示といっても「どうしたらいいの?」という方もいますよね。
パンやお菓子、ケーキも含めて全ての食品は何かしらのシールや表示があるかと思います。
パッケージに印刷するとなると費用もかさむので、個人店はおおよそラベルプリンターを使います。
ラベルプリンターにも種類があります。
- 感熱タイプ
- 熱転写タイプ
- 熱転写ラミネートタイプ
それぞれ特徴がありますので、画像をご覧ください(Brotherのラベルプリンターサイトからの引用)。
実はパン屋をはじめてしばらくは自宅にあるプリンターにシール用紙を入れて、ラベルとして使用していました。
自宅プリンターだとインクジェットでない場合は雨など水分にとても弱い。
冷凍で発送するし、水分と喧嘩するよなと思い数年前にラベルプリンターを導入しました。
ブラザー『QL-820NWB』 。購入価格は当時3万円台でした。
長く使えるものなので、投資したというわけ。
シールもいろいろありますし、各種テンプレートもあります。
わたしが使用しているのはDK-1220。39mm×48mmサイズ。
文字の大きさやら、情報量やらを考えてこのサイズにしました。
互換ラベルも出ています。
使い方はこんな感じ。
- プリンターの電源を付ける
- アプリを開く
- Bluetoothを繋ぐ(初回設定後は自動接続)
- 「作成」から「食品」を選択
- テンプレの中から使いたいものを選ぶ
- 情報を入力し、「保存」を押す(「マイラベル」として保存可能)
- 「印刷」を押して、枚数を選択し印刷開始(※オートカットは1枚ずつ、最後をカットは繋がって印刷される)
説明するまでもなく、書いてある通りに操作すれば簡単に出来ます。
パン屋として出来ることは、アレルギー持ちの方を救うことではありません。
POPにアレルギー表記をしておくと、購入者側としてもとても楽になります。
紙に印刷して、ラミネートしておくと繰り返し使うことが出来ます。
自分の身は自分で守る。それを意識してみてください。
今回のまとめ
今回は「パン屋が知っておくべきアレルギーの話」ということで、アレルギーについての基礎知識から対応方法について解説してきました。
ポイントは4つ。
アレルギー持ち側としては説明をしっかり受けた上で、身体が反応してしまうことは覚悟をしています(そりゃ反応が出ないに越したことはありませんが)。
その場合でもサラッと交わされて食べているのか、念には念をと言われてから食べているのかは、気持ちとしても結構違うものです。
以前、パン屋は誰でもなれると伝えました。
誰でもなれるからこそ、こういう大切な知識を知らずにパン屋やお菓子屋になる人もいるわけですよね。
それはとても危険なことだと思います。
必要な知識はつけておく。
誰でもなれるからこそ、知識の鎧は必要だなと思うのです。
お客さんも自分も守って、楽しくパンを焼きましょう!