前回から3回に渡り、パンを知る内容にしています。
今回は「パンの素材選びのコツ」。
「そんなもん、知っとるわい!」という人もいれば、「へー!知らなかった」という人もいるでしょう。
ときどき復習することで新しい発見があるかもしれません。
まずは小麦粉と酵母。
この2つはパンの風味を決める大切な要素。
生地のアレンジをするときにも基礎があるとスムーズにできるかと思います。ぜひ参考にしてみてください。
まずはパンの材料をおさらい
前回、古くは水と小麦粉を混ぜたものがパンの由来であることをお伝えしました。
それから時代は過ぎ、主に4つのものを使いパンを焼くことになりました。
- 小麦粉
- パン酵母
- 塩
- 水
この4つの材料があればいわゆる「パン」と呼ばれるものができます。
そこに加えて油脂、砂糖、卵、牛乳などを組み合わせて、さまざまな種類のパンを焼くことができるわけです。
さらにフルーツやあんこ、ナッツなどで歯ごたえや香りをプラスし、バリエーションが広がります。
それぞれの役割もざっとまとめておきましょう。
副材料もいっちゃいましょう。
パン作りをはじめた当初、どんな気持ちではじめましたか?
多くの方が「パンを食べたいから」焼きはじめましたよね。
もちろんわたしもそのひとりでしたが、実はこれらの化学反応の世界にハマったのもあります。
なぜこれを加えるとこうなるのか、
なぜこれに変えるとこうなるのか。
なぜ?なぜ?がこうやって知識を増やしてきた。
パンを食べることよりも作ることのほうが好き。結局のところは根っからの理系人間なのかもしれませんw
小麦粉:タンパク量・産地の違い
この項目では「小麦粉」に焦点を絞っていきましょう。
小麦粉の役割は「土台」。成分は主に”でんぷん”と”小麦タンパク”。
一般的にはでんぷんが70-76%。タンパク質が6.5-14.5%で、残りは灰分(ミネラル)や水分です。
小麦粉から作られるものの例としてはパン、麺、お菓子などがありますよね。
食感の違いは「タンパク質」の量。本当にこまかーい単位の違いで、ずいぶんと変わります。
小麦粉の種類はこんな感じ。タンパク質の量も添えておきます。
このわずかなタンパク質の違いが、あんぱんからフランスパン、うどん、クッキーに影響してくる。
めちゃめちゃ面白くないですか?
その他、全粒粉やライ麦粉・米粉などもよく使われます。補足としてまとめておきましょう。
全粒粉(グラハム粉)
通常小麦は小麦の中心部のみを挽いていますが、全粒粉は小麦の粒を丸ごと挽いたものになります。
食物繊維、ビタミン、灰分が多くなりヘルシー。
反面、グルテンの組織を分断するため、小麦粉に対して15-20%ほどに抑えるのが一般的です。
ライ麦粉
ライ麦はタンパク質こそ含んでいますが、小麦粉のようにグルテンは作りません。
ミネラル、アミノ酸、食物繊維を含み低カロリーでヘルシー。ちょっと酸っぱいのが特徴。
米粉
近年、米粉パンが流行っていますよね。米粉は主にうるち米やもち米を製粉したものになります。
グルテンの元になるタンパク質は含まれていません。そのため小麦オンリーでふわもちのパンは難しい。
米粉100%でパンを焼く場合は粉末のグルテンを使用することが多いです。もちろん小麦粉と組み合わせて使うこともあります。
独特のモチッとした食感が特徴です。
日本で消費されるパン用小麦のうち、実に約85%がアメリカやカナダ、ヨーロッパ産。
伸びがよく、食パンによく使われます。
近年では日本でも国産小麦が栽培されています。
海外産よりもタンパク質の量は少なめですが、香り豊かな、かみごたえのあるパンが焼けます。
強力粉のうちいくつか有名なものを挙げておきます。
どれも焼きやすいのでオススメです。
ブレンドしたものも販売されており、もちろんご自身でブレンドしてもヨシ。
なんやかんや試しましたが、わたしは「春よ恋」100%が好きです。ハード系のパンなら「タイプER」が好きかな。こちらも国産です。
選び方のコツ…と言われたら「好みで」としか言いようがないのですが、5:5で試してみたり、1:9で焼いてみたり。
「こんな細かい差、関係ある?」みたいなところを検証してもらうと自分ブレンドが見つかります。
少しだけ海外産のものを混ぜると、生地に伸びが出るので失敗しにくいかなと。
小さいものでは500gや1kgで販売していますので、ぜひいろいろと手に取ってみてください。
酵母:イーストと天然酵母
お次は「酵母」にまいりましょう。
酵母の役割からいきましょうか。
パンは何かしらの酵母を使って、生地を”発酵”させることで完成します。
発酵とは「酵母の活動によってもたらされる一連の現象」のこと。ここを掘り下げるとマニアックになってしまうのですが、お酒や醤油、味噌なども発酵によって作られますよね。
発酵には条件があり、パンの場合は小麦粉と水が科学的に結合し、その上で酵母に消化されて”炭酸ガス”と”アルコール”を生成します。
ガスは想像できる通り、パンを膨らませる。アルコールは過発酵時にその香りが目立ちますよね。
発酵は酵母の環境が60℃を超えるまで進み、オーブンに入れてしばらく膨らむのはそのためです。
で、ここから。
酵母にも種類がありますよね。
よーく聞くのがこの2つでしょうか。
- イースト
- 天然酵母
ひとことでまとめるとイーストは「パン作りに適した酵母のみを凝縮」している酵母。天然酵母は「自然のものを利用して作られた」酵母。
こう聞くとイーストは人工物、天然酵母は自然派のような感じですよね。
でも自然派は食中毒リスクがあります。
風味の面で言えば、イーストは小麦粉の風味は邪魔しません。天然酵母は酵母の風味が主張します。
天然酵母の中にはいいとこ取りした「ドライタイプ」も存在します。風味は割と出てきますが、衛生面ではベスト。
とはいえ酵母の論争にはおそらくゴールがありません。どちらもメリット・デメリットがあります。
なので、自分が使いたいものは自信を持って使えばいいかなと。
例えばイーストを使ったパンを販売してお客さんに「なんだ、イーストか」と言われても気に留めることはありません。
その人は天然酵母派だっただけ。逆の人もいるわけですよ。
あれがいい、これが悪いとかではなく「わたしはこれが好き」。それでいい。
10年以上、ちいさなパン屋を続けてようやくこんな風に思えるようになりました。
あ、わたし自身は天然酵母の衛生面が気になるためゴリッゴリイースト派の人間です。
天然酵母のパンは好きですが、どうにも酵母を作るあの工程が…ね。
ほら、人間の好みはどこでこだわりがあるかわからないんですw
ベーキングパウダーとイースト
最後の項目では「ベーキングパウダー」に焦点を当てます。
そもそも”小麦粉を使って膨らませたもの”はパンと呼ばれる物体にはなります。
となると、ベーキングパウダーだってパンは焼けます。
スコーンやマフィン、蒸しパンもパンの一種ではありますが、あれは酵母を使うこともあれば、ベーキングパウダーを使うことも。
ここではベーキングパウダーとイーストの違いを知っておきましょう。
両者の違いは「膨らませる仕組み」。
ベーキングパウダーは重曹(炭酸水素ナトリウム)と産生剤が主成分。
その主成分と水、そして熱が加わることによって化学反応が起こり、炭酸ガスが発生する。よって生地が膨らむ。
メリットは「生地を寝かせる必要がない」こと。
なんならベーキングパウダーを使った生地は生地中の水分に反応して炭酸ガスを発生するため、あまり長時間寝かせることは向いていません。
裏を返せば”すぐ焼ける”ということ。
さて、イーストはどう膨らませるか覚えていますか?
イーストは「微生物」ですよね。酵素分解が起こり、じわじわ発酵が進む。
ということで結論はこちら。
イーストは「ふっくら・もちもち」の弾力がある生地を焼きたいとき。つまりパンなどを作るときに使うのがベスト。
ベーキングパウダーは「サクサク」として軽い食感を出したいとき。つまりお菓子やスコーン、ケーキなどを焼きたいとき。
肉まんなどは時短でベーキングパウダーを使うこともあるそう。
それぞれの特徴に合わせて使い分けましょう。
今回のまとめ
今回は「どんな材料を使ってる?パンの素材選びのコツ」。パンの材料の中でも強力粉と酵母に絞って解説してきました。
長年、ちいさなパン屋をやっていて思っていたことがあります。
「天然酵母がいい」「米粉がいい」「小麦は悪」
こんな声が極端な方向に向かっている現状。
今回の内容でお分かりいただけた通り、粉にも酵母にもそれぞれの良さがあります。
いいんですよ。美味しいと思ったものを食べれば。
もちろん健康管理の面で食べ過ぎは良くないです。でも何かを悪者にしたがるこの風潮が好きではない。
食べたいときに食べる。食べたくないなら食べなくていい。
それを周りに強要するのは良くない。
パン屋だからこそ小麦の悪については心苦しいときもあったりするんです。
でもね、「美味しい」と言って食べられるその瞬間が何より幸せだと思うんです。
そんなひとときが作れたらいいなと思います。