先日、こんな質問をいただきました。
「自宅工房を考えているのですが、住所を公表するのに抵抗があります」
お気持ち、よーーーく分かります。そしてこの質問、よーーーくいただきます。
ネット上でモノを売る以上、最低限のルールは知り、守る必要があります。
最近ではこういった個人事業主の情報が悪用されることもあり、ネットショップでは非公開にすることも出来るようになりました。とはいえ、内容を知らずにただ公表したくないだけで非公開にするのはよろしくありません。
内容を理解した上でそういった機能を使うようにしましょう。注意事項も合わせて解説します。
特定商取引法とはなにか
まずは特定商取引法についてまとめていきましょう。
消費者庁が出している特定商取引法ガイドを参考にします。
特定商取引法は「事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律」です。
例えば訪問販売や通信販売などトラブルが起きやすい取引を対象に、ルールなどを定めたものとなります。
今回はネットショップについての質問をいただいたので、先にそちらについても触れておきます。
ネットショップを開設する場合は「特定商取引法に基づく表記」をする必要があります。のちほどどんな情報を記載するかなどをまとめていきますが、一旦はどんなものが対象になるかを知っておきましょう。
特定商取引法の対象になる取引類型は7種類。
- 訪問販売
- 通信販売
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引
- 特定継続的役務(えきむ)提供
- 業務提供誘引販売取引
- 訪問購入
それぞれ簡単に紹介します。
訪問販売
事業者が消費者の自宅等に訪問して、商品や権利などの販売・役務の提供を行う契約。キャッチセールス、アポイントメントセールスを含みます。
時代的には以前より減っているかと思いますが、ガスなどは未だきますよね。あれです。
通信販売
事業者が各種媒体で広告し、郵便・電話等の通信手段により申し込みを受ける取引。
現在はECサイトなどインターネット上での取引が主となっています。なお次に出てくる「電話勧誘販売」に該当するものは除きます。
電話勧誘販売
事業者が電話で勧誘を行い、申し込みを受ける取引。電話を一旦切ったとしても、消費者が郵便や電話等で申し込みを行う場合も該当します。
連鎖販売取引
個人を販売員として勧誘し、さらにその次の販売員を勧誘させる形で販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・権利・役務の取引。
こちらは化粧品や日用品などの販売でよくニュースになったりしますよね。いわゆるネズミ講的なもの。
特定継続的役務(えきむ)提供
長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引。
例えばエステティックサロン、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾などが含まれます。期間としては1.2ヶ月以上、価格にして5万円以上が特定継続的役務として指定されています。パソコン教室や結婚紹介所なんかも該当するようです。
業務提供誘引販売取引
「仕事を提供するので収入が得られるよ」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要だからと商品などを買わせる取引。こちらも最近ちょこちょことトラブルになったりするそうです。
例えばホームページ作成の在宅ワークで指定のソフトが必要になる…など。よくありますよね。
訪問購入
事業者が消費者の自宅等を訪問して、物品の購入を行う取引。
これはわかりやすいですよね。中古品狙って押しかけるというもの。
このうち、ネットショップは2つ目の「通信販売」に該当します。
次に内容についてみていきましょう。
特定商取引法では取引類型により行政規制が設けられています。
通信販売の場合は7つ。
- 広告の表示
- 誇大広告等の禁止
- 未承諾者に対する電子メール広告提供の禁止
- 特定申し込みを受ける際の表示
- 前払式通信販売の承諾等の通知
- 契約解除に伴う債務不履行の禁止
- 顧客の意に反して申し込みさせようとする行為の禁止
こちらもそれぞれみていきましょう。
1.広告の表示
通信販売では商品が手に届くまで、実物を確認することができません。そのためわかりやすい内容の広告や商品ページを作る必要があります。
わかりやすい内容とは「いくらで、どう支払って、誰から、どう届くか」。
- 販売価格、送料
- 支払い方法、時期
- 引き渡しの時期
- キャンセルについて
- 事業者の氏名、住所、電話番号
パンの場合だったら「賞味期限」も大切になりますね。次の項目で具体的に表記するものを挙げますが、ネットショップを開設する際に規約をつくります。そちらもこの一部となります。
2.誇大広告等の禁止
先ほどもお伝えしましたが、お客さんは商品が届くまではどんなものが届くかを確認できません。
話を盛ったりするのはもちろん良くないですよね。根拠のない謳い文句もよろしくありません。事実を誤認させるような誇大広告は禁止されています。
3.未承諾者に対する電子メール広告提供の禁止
メルマガや注文確認などの「必要な連絡」の際の広告は除外されていますが、メールアドレスを知ったからといってなんでも送っていいわけではありません。
例えばLINE公式アカウントなどはお客さん自身が「このお店の情報を受け取りたい」と思って登録しますよね。
その場合はオッケー。それが違った場合、例えばママ友のクラスLINEに宣伝するとかは本当はダメな行為だったりします。まぁ内輪なので訴えはしませんがw
広告を送る場合は事前に消費者に承諾を得なければいけません。
4.特定申し込みを受ける際の表示
事業者が定める様式等に基づき申込の意思表示が行われる場面において、消費者が必要な情報につき一覧性を持って確認できるようにするとともに、不当な表示が行われないよう規制しています。
本文そのまま出したのでわかりづらいですね。
これは1の広告の表示にも通ずるものになります。要は「分量、価格、代金の支払い時期」などを表示しましょうということ。というか同じですね。とにかくわかりやすくしましょう、というわけです。
5.前払式通信販売の承諾等の通知
商品の引き渡しなどが行われる前に前払式で代金を受け取る場合、以下の内容を記載しておく必要があります。
- 申込みの承諾の有無
- 事業者の氏名、住所、電話番号
- 商品の代金
- 取引年月日
- 商品内容とその数量
- 商品の引渡時期
これはネットショップを利用する上では欠かせないことですよね。こちらもまた商品の価格や発送時期などを明確にしておきましょうというものです。
お客さんに「受注生産となります、6日以内に発送します」をお伝えするのはこのためです。
6.契約解除に伴う債務不履行の禁止
これはいわゆるキャンセルについて。
特約(当事者間での特別な約束)がなければ通信販売では契約のキャンセルは可能です。
すでに引き渡している場合は商品の返品や代金の返金などをする必要があります。
7.顧客の意に反して申し込みさせようとする行為の禁止
「ボタンを押すと有料の申し込みになる」みたいな紛らわしいものはやめましょう。もちろん消費者にわかりにくいようにするのもいけません。
もはやこれに関しては詐欺行為にも当たりますよね。この項目は特に厳しく規制されています。
とにかく”わかりやすく”を心がけましょう。
ここまででなんとなく特定商取引法のことがつかめたでしょうか?
規制内容に違反すると罰則が生じます。業務改善の指示(法第14条)や業務停止命令(法第15条)など罰則の対象となりますので、気をつけましょう。
こう言われるとドキッとしますよね。でも大丈夫。ネットショップにはそういったものを記載する環境が整っています。
次からの項目で解説していきます。
特商法で表記すべき情報とは
ここまでで「商品を販売するなら情報はしっかり記載しないといけない」とわかりました。……とはいってもまぁ当たり前のことではありますよね。
大きなショッピングサイトでもトラブルがあるのだから、個人でやっているパン屋なんて「このお店、購入しても大丈夫かな?」と思われるのはそりゃそうです。
なので記載することはしっかり記載しましょう。ただ、近年記載したことにより別のトラブルが目立つようになりました。
そのため一部情報を非公開にできる機能なども出てきていますので、そちらは次の項目で解説します。
まずは必要な情報からまとめていきましょう。
- 販売業者、屋号
- 運営統括責任者
- 所在地
- 電話番号
- 商品代金以外の必要料金の説明
- 申込有効期限
- 不良品について
- 販売数量
- 引渡し時期
- 支払方法
- 支払期限
- 返品期限
- キャンセルについて
多いな!と思ったかもしれません。これ、すべて自分で文章を考えるわけではありません。
例えばSTORES。ショップを開設したときにテンプレがあります。なのでそれに沿って自分の該当する部分を入力すれば大丈夫です。
少し安心しましたかね?
で、一番皆さんが懸念しているのが「事業者の名称および連絡先」でしたよね。次の項目でまとめていきましょう。
個人情報を非公開にできる⁈
自宅をお店にする場合、自宅の住所を公開しないとお客さんは来れません。なのである意味、住所の公開には抵抗がないかと思います(てゆーか抵抗してたら商売になりませんね)。
これがネットショップのみの運営となると変わりますよね。
「できれば自宅を公開したくない…」
この気持ち、とてもよく分かります。
実は2022年ごろまではどのネットショップにおいても住所等を公開する必要がありました。そのためお店によってはバーチャルオフィスを借りたりして、記載していたところも。
わたしはどうしていたかというとそこは諦めて公開していました。母の事業所の住所を借りることもできたのですが、なんかね。
そういうところは謎の正義感で真面目にやるタイプですw
公開したことで誰かが訪問してくることはなかったのですが、やたら勧誘の電話が来るように。
「もっとショップを宣伝しませんか?」
「福利厚生の商品としてどうですか?」
「このサイトにも出品しませんか?」
業務を拡大するつもりはなかったので、とにかく迷惑。そもそも電話苦手ですし。なので一時期は電話番号を別のサービスを利用して別のものにしていました。
しかし2022年に入ったころ、minneで特商法についての方針が変わったのです。それがこちら。
要は「条件を満たした人は住所と電話番号の非公開機能を利用できるようになる」というもの。
この条件というのは”特定商取引法で販売業者に該当する個人(個人事業主を含む)”。つまりわたしのような個人でやっているちいさなパン屋もです。
今現在は「事業者名・住所・電話番号」のうち、事業者名(氏名)は必須ですが、住所と電話番号は非公開にすることができます。
非公開に設定すると住所と電話番号はminneを運営している「GMOペパボ株式会社」の所在地・連絡先が表示されます。
STORESでも同じように非公開機能があります。こんな感じですね。
ちなみに電話は来なくなったのですが、STORESではお問い合わせフォームから未だ勧誘のメールは来ます。そこは下手に返信せず、スルーで大丈夫。同じくInstagramなどでの勧誘もスルーです。
どうでしょうか?安心しましたか?あ、氏名は出すことになりますのでそこはご理解くださいね。どちらも住所等が必要になった際は速やかにお客さんに開示するようにしましょう。
商品ラベルはしっかり記載を
さて。ネットショップ上において、個人情報は最低限の公開で済むことが分かりました。
一旦ちょっと安心したでしょうか。
ただそうなると「商品ラベルは…難しいですか?」と聞かれることがあります。
そもそもネットショップ上の非公開というのは個人情報保護法の兼ね合いもあります。でもそれが商品のやり取りになると”個人間のやり取り”になりますよね。
ってことはお互いが名前も住所も電話番号も知った上で正々堂々取引しましょうということになります。
なので商品ラベルについては以前紹介した通り、以下を記載しましょう。
以前、記事にしていますのでご覧ください。
このとき、アレルギー表記も忘れないようにしましょう。アレルギーについてはこちらの記事。
記載が義務付けられているのは「特定原材料」。8種類あります。そして表示は任意ですが、可能なら記載した方がいいのは「特定原材料に準ずるもの」。こちらは21種類。
実は準ずるものの半分近くはパンやお菓子に使うもの。やっておいて損はありません。一緒に記載しましょう。
またイベント出店においても商品ラベルは必須。こちらもまた「顔を合わせてやり取りをした相手」です。
「どこで、誰が、何を使って、どのように作ったのか」を分かるようにしましょう。
今回のまとめ
今回は「自宅工房の記載どうしてる?パン屋が知っておきたい特商法のハナシ」ということで、ネットショップにおける氏名などの情報開示について解説してきました。
わたしも基本的に自分の身元が分かるような情報は出したくありません。
周りではガッツリ名前を出して活動している仲間も数多くいますが、「すごいなー、わたしにはできないなー」と思っております。
ショップで住所、電話番号を公開したくないのは分かります。
でもネットショップに至ってはお客さんはわたしたちお店よりも先に情報を提供してくれていることは忘れないようにしましょう。
「発送元もわからないようにしたいのですが、いいですか?」と聞かれたこともありますが、どこの誰かわからない人から送られてくるその恐怖って想像したことがありますか?
メルカリなどは匿名配送のサービスを提供しているから分かります。でも個人店でそれをやると…普通に怖いです。
個人的には「個人間やり取りは正々堂々と」がモットー。
ネット上に情報を記載するのは抵抗がありますが、個人間やり取りはむしろ情報を出した方が安心です。
出すところ、出さないところのメリハリをつけましょう。