前回「美味しいパンを焼く方法」をお伝えしました。
今回からは3回に渡って「パンとは」について改めてまとめてみようかと思います。
この記事では「パンの歴史」。残り2回は「パンの材料」。
美味しいパンを焼くためには”マイレシピ”を見つける必要があります。
パン屋をはじめたいと思ったら”マイレシピ”がないと勝負はできない。基本の生地を見つけ、アレンジを加え、モノにしていく。
まずは歴史から。知るほど味わい深い世界。きっともっとパンが愛おしくなりますよ。
パンの歴史をギュギュッと
パンのはじまりは紀元前8000年までさかのぼります。
よーく歴史に出てくる「メソポタミア文明」。
チグリス川・ユーフラテス川流域で成立した人類最古といわれる文明です。場所でいうと今のパレスチナ・イラク付近になります。
ここでは最初の農耕や牧畜が行われていたとされています。
現地の古代遺跡であるイスラエルのオハローⅡ遺跡からは、焼失家屋から小麦の野生種やすり石、暖炉が発掘されています。
紀元前4000年ごろになると粉状にした大麦や小麦に水を加えてこね、直火で焼いたものが食べられていたとのこと。これが現在のパンの原型といわれています。
そこから場所を変えてアレンジが加わります。
古代エジプトでの話。
先ほどの小麦と水でできた生地を放置していたら、空気中の野生酵母が付着。暑さで発酵開始。
試しに焼いたら美味しかった…らしいです。
ほんとかよw
古代人はこれを「神様の贈り物」と喜び、パン作りが盛んになっていったようです。
このあとどのようにして世界に広がっていったのか。
紀元前1000年ごろには古代エジプトから古代ギリシャへ。ここではオリーブやレーズンを組み合わせる。
さらに古代ローマへわたりました。
有名な古代都市・ボンベイの遺跡からは製粉所や製パン所、石臼や石窯などが発掘されています。
古代ローマではキリスト教の普及とともに一気にパンがヨーロッパ全土に広がりました。
上流階級では精製した小麦で作る「白パン」、庶民にはふるいに残された粉で作った「黒パン」が出されていました。
そして紀元前200年ごろ。弥生時代あたりですね。中国から日本に小麦が伝わるのです。
このときはまだ煎餅のようなものしか焼いておらず、日本にパンが伝わったのは鉄砲伝来のあの時期。
そう!フランシスコ・ザビエルのあの時期です。ポルトガルから伝わったため、パンの語源はポルトガル語の「pao」からといわれています。
ただこのあと鎖国政策により、パンは姿を消します。
が、小麦時代は残っており、江戸時代末期からは乾パンのような保存性重視のパンとして復活しました。
ここあとどのようにして今の日本のパンが生まれたかというと、戦争が絡んできます。
第一次世界大戦後、日本各地の収容所にいたドイツ人捕虜がその後に日本でベーカリーを開きます。ここでドイツの製法や道具が日本に入ってくるんですね。
また同盟国のアメリカからは砂糖やバターを入れたやわらかいパンが伝わってきて、これが今の日本のやわらかいパンの文化につながってきます。
なお第二次世界大戦頃には小麦も不足し、食糧難になった日本ですが、戦後にアメリカから小麦粉が届き大量生産がはじまったとのこと。
…こう考えると日本のパンはドイツの製法からはじまり、戦時下を経てアメリカのやわらかいパンが再輸入した感じでしょうか。
どうでしょう?歴史を知ると「アナタ、はるばるありがとう」と思えますよねw
次は世界のパンについて解説していきます。
世界のパンの種類を知る
ここでは大きく分けて世界を4つに分けます。
- ヨーロッパ
- アフリカ、中東
- 北米、南米
- アジア
ざっくり特徴をまとめるとこんな感じ。
ヨーロッパはシンプルな材料で実りの象徴、お祝いなどでも焼かれます。
アフリカ・中東はいわゆる小麦の故郷、今でも発酵させないパンが多め。
北米は特にニューヨークなどはパンのトレンドを作る場所です。
南米は小麦やライ麦以外の穀物を使ったパンがよく食べられます。
そしてアジア。アジアは米を主食にしてはいますが、パンもよく食べられます。気候が国によりかなり異なるのがアジア。そのため国ごとに独自のパン文化がある印象です。
それぞれの地域を少しのぞいてみましょう。
フランス
フランスといえばパンやお菓子のイメージですよね。シンプルな生地が多めですが、食感も味わいも豊富に揃います。
バケットをはじめとするハード系の食事パンが多め。
一方でリッチ系も充実しており、おやつや週末の朝食として楽しまれています。
よく食べられるのはバケット、エピ、カンパーニュ、クロワッサン、ブリオッシュなど。
イタリア
イタリアのパンは全体的に塩分が少ないのが特徴。
単体で食べるというより、食事に合わせて食べるのが一般的です。
地中海気候といえばオリーブオイル。
よく食べられるのはフォカッチャ、チャバッタ、グリッシーニ、ピザなど。
ドイツ
ドイツは「パン王国」ともいわれ、一人当たりのパンの年間消費量はヨーロッパでトップクラス。
ただ小麦が育ちにくい気候から、ライ麦などさまざまな種類が食べられています。
よく食べられるのはロッケンブロート、ミッシュブロートシュトーレン、カイザーゼンメル、ブレッツェル。
イギリス
イギリスといえば「ブレックファースト」。ティータイムのパンが有名ですね。
よく食べられるのはイギリスパン、イングリッシュマフィン、スコーン。
長くなりそうなのでヨーロッパはここまで。
続いてアメリカにいきましょう。
アメリカ
移民によって拓かれたアメリカは製法としてはヨーロッパ寄り。そこから工夫が加わって、オリジナルが生まれています。
有名なのはバンズ、ベーグル、バターロール、ドーナツ、コーンブレッドなど
中でも特徴的なのはベーグル。実はユダヤ系の移民が伝えたそうです。
その他、メキシコはトルティーヤ。ブラジルはポンデケージョが有名ですね。
アジアに入ると、インドはナンやチャパティー。
中国はマーラーカオ、中近東はピタパンなど。
世界の主食として発展してきたパン。その視点から見るとさらに楽しくなりそう。
日本発祥のパンたちとは
日本は島国。そのためパンに関してはずいぶんと独自の文化を歩んでいるようです。
歴史は先ほどお伝えしましたが、日本には『菓子パン』がありますよね。
具材を混ぜ込むのではなく、包み込むこの手法……実は日本独特のパン文化なんです。
ここでは「あんぱん」「クリームパン」「カレーパン」「メロンパン」のはじまりをまとめていきましょう。
あんぱん
あんぱんのスタートは明治7年。
木村屋総本店の創業者が日本人の味覚にあったパンを作りたいと思い、日本酒の酒種で生地を発酵する技術を開発。
なら組み合わせるのは”あんこ”だろ!ということで包み込んでみた。
翌年4月4日には明治天皇に献上するなど一躍有名に。
今でも4月4日は「あんぱんの日」とされています。
クリームパン
あんぱんのあと、木村屋総本店3代目がジャムパンを開発。
程なくして新宿中村屋でシュークリームの外側をパンにしてみたらどうか?と思い、クリームパンが誕生。
今ではクリームパンといえばグローブ型ですが、初期は半円型だったそう。あんぱんと区別したかったのか、空気抜きかは定かではないそうです。
カレーパン
昭和に入り、惣菜パンが生まれました。発祥は東京の森下にある名花堂(現在はカトレア)。
とんかつからヒントを得て、中に硬めのカレーを入れて揚げてみたところこれが大正解。
今では焼きカレーパンやキーマカレーぱんも有名です。
メロンパン
メロンパンは実は発祥が謎に包まれているそう。表面にビスケット状の生地をのせ、なんともいえないおやつ感満載。
何がってメロンは入っていないのに、メロンパン。
名前の由来さえ謎に包まれている不思議なパン、それがメロンパン。
いかがでしょうか。
確かに海外でチョコチップやレーズンなどが練り込まれていても、中に存在感抜群な材料が入っているのをみたことがありません。
なるほど、日本発祥だったからなんですね。
食事のお供として食べるのが海外の傾向、日本ではご飯として楽しめるのが特徴。
どちらの文化もステキなので、欲張っていろんなパンを焼きましょう。
パンを美味しく食べるコツ
最後は「パンを美味しく食べるコツ」について。
実は世界は焼きたてパンより冷えたパンを食べることが多いそう。これもまた日本独自の文化なのかもしれません。
以前もお伝えしていますが、せっかく歴史を紐解いたのでまとめておきましょう。
パンも水分量やら小麦の配合量やらで個性があります。
共通するのが「空気に触れている分、劣化しやすい」こと。
そのため今から食べる分を除いたら、冷凍保存がおすすめ。
普段販売しているパンは焼きたてからちょうど美味しいタイミングを狙って冷凍しています。
理由はお伝えしたとおり。
そのときできたら個包装の方がおすすめ。袋でもいいし、サランラップでも構いません。
食べるときに、食べる分だけ解凍する。そのときに空気に触れる時間を減らす。それが狙い。
解凍は自然解凍してから、トースターで温める。もしくは裏表それぞれ600w30秒くらい温める。どちらも美味しく召し上がれます。
日本では焼きたてパンが一番美味しいとされていますが、焼きたてホヤホヤのパンはまだ未完成。
余分な水分が残っており、食パンなんかは焼きたてをカットしようとすると失敗します。
ふわふわなパンを食べるならある程度熱が取れるまで待ちましょう。
パンの水分が蒸発し、ちょうど食べごろになります。
このとき食パンをカットするならパンは寝ころばせたほうがつぶれずカットできます。
ぜひお試しあれ。
今回のまとめ
今回は「パン好きこそ知ってほしい!歴史のハナシ」を解説してきました。
パンの歴史をざっくり知ったことでどう感じたでしょうか?
個人的には「その土地に根付いた食べ方があるんだな」と思いました。
確かに海外に行ってもあんぱんやメロンパンはあまり見かけません。
そういえば上海もベーグルと食パンはあったけれど、包み込むタイプとなると肉まんの方が軍配が上がっていたかも。
適材適所というやつですね。
もーっと世界を小さくみてみましょう。
自分にとって”美味しい”と感じるパンが焼けたら、とっても幸せなことだと思いませんか?
食べて欲しい!売れたい!この気持ちはもちろん大切。
でもまずは自分が自分のパンを愛してあげる。それだけで味も絶対変わると思うんです。
ぜひそんなことを思い浮かべながらパンを焼いてみてください。