今回は「パン屋として知っておきたいHACCPの話」。
「難しい話ね!大丈夫でーす!」と言わず、ぜひご覧くださいませ。
パン工房をこれから始めたいという方には避けては通れない話題です。
なるべくほぐして解説していきますのでぜひ最後までお付き合いください。
HACCPって何?
HACCPってご存知でしょうか?
『製造者自身が食中毒汚染や汚物混入の危害を把握した上で、製造工程を管理し、製品の安全性を確保する衛生管理の手法』。
ほぐしにほぐしますと、
要は“衛生管理“のことです。
HACCPなんて横文字で言われると難しく思いがちですが、資料を読んでいくと実に基本的なことが書かれています。
2021年から食品衛生法が改正され、“HACCPに沿った衛生管理の実施“が必須になりました。
飲食店やわたしのようなちいさなパン工房の施設の場合は『HACCPの考え方を取り入れた衛生管理』をすることになります。
詳細は厚生労働省のホームページに業種ごとに手引書があります。
今回はこの「パン製造における食品衛生管理」の手引書から引用してきます。
こんなことを行っていきます。
必要になる書類としては
- 衛生管理計画書
- 必要に応じて手順書
- 衛生管理記録 の3つとなります。
1つずつみていきましょう。
衛生管理計画書
ざっと噛み砕きますね〜。
- 材料、腐ってませんか?
- 冷蔵庫と冷凍庫、動いてますか?
- 食中毒になるようなことしてませんか?
- 器具などは消毒してますか?
- トイレ、掃除してますか?
- 体調、大丈夫ですか?
- 手洗いしてますか?
- 食品の扱い方、大丈夫ですか?
こう聞くと「そんなのやってるし!」と反抗期のうちの息子のような反応になりそうですが、これを記録していくのが「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」です。
だいぶ柔らかくなりましたね。
手順書
コチラは従業員がいる場合に必要になります。
簡単にいうと「スタッフ間でいつでも共有できるような資料を作りましょう」というもの。
衛生記録
これは「実施記録」のこと。
チェックリストに毎日コツコツ記録していってください、ということです。
以上3点が必要なものとなります。
ということで、すごく簡単になりました。
パン製造における衛生管理とは
パン屋で行う衛生管理としては“一般衛生管理“というものを行うことになります。
これまた一般衛生管理、と言われると何やら大事な感じがしてしまいますが、内容としてはごく一般的なものです。
簡単にまとめるとこんな感じ。
こうやって1つずつ挙げていくと何ら難しいことはなくて、普段通り清潔を保つということ。
衛生管理計画ではそれぞれの項目に「いつ・どのように・問題があった時どうするか」を記載します。
いくつか例を挙げておきます。
- いつ:作業を始める前
- どのように:庫内に設置した温度計で確認する
- 問題があった時:異常を確認し修理を依頼
- いつ:作業前、作業中、トイレの後、清掃を行った後
- どのように:衛生的な手洗いを行う
- 問題があった時:必要なタイミングで手洗いを行う
- いつ:作業を終えた後
- どのように:廃棄物の状況を確認し、廃棄する
- 問題があった時:毎回廃棄を行うようにする
…かつてわたしは看護系に進学していたのですが、なんだか看護計画みたいですね。懐かしくなりましたw
ここまでが衛生管理のお話になります。
ここからは食品管理について。
食品の管理を3つのグループに分けて行います。
- 非加熱のもの
- 加熱するもの
- 加熱後冷却するもの
飲食の提供をしないパン工房で関係してくるのは「非加熱と加熱後冷却するもの」になります。
非加熱のものというのは例えばパンの中身。
あんこやチーズ、チョコレートなどの管理になります。
仕入れてきた後の管理方法をまとめるイメージです。
これは“冷蔵庫から取り出したらすぐ使用する“とします。
ドライフルーツは常温保存するものもあるのでそれを記載します。
加熱後冷却するものというのは焼き上げたパンのこと。
これは“調理後、粗熱をとって梱包し提供する“とします。これだけです。
これらの情報については「衛生管理計画書」として製造工程を含め、書面等に残しておきます。
1から作る必要はなく、先に紹介した手引書にも載っているので少しアレンジを加えて自分仕様にすれば大丈夫。
エクセルなどで作って印刷して保管します。
常識的な内容であればそこまで深く突っ込まれることはありません。
1度しっかり作っておいて、変更などがあった時に直す。
工房の許可更新のときなどに聞かれたら答えられるようにしておきます。
最初はちょっと大変ですができる範囲で作り込んでおきましょう。
記録に残す媒体を決めよう
さて衛生管理まで作れたらチェックリストを作って管理していく媒体を決めましょう。
エクセルやスプレッドシートでもオッケー。方法は人それぞれやりやすいものを選びましょう。
残す媒体としては主に3つの方法があります。
- 紙に記録する
- データとして記録していく
- アプリで管理する
それぞれまとめていきましょう。
紙に記録する
紙での管理の特徴はこんな感じです。
- メリット:馴染みがある・分かりやすい・簡単
- デメリット:衛生的にどうか・保管場所をとる・紛失の恐れあり
HACCPで検索をすると便利な表などもありますのでそちらを印刷してもいいかと思います。
が、出来たら自分の製造所仕様の内容のがいいのでアレンジして使うのがオススメです。
データとして記録していく
記録が義務化されたということで管理ツールもいろいろ出てきました。
- メリット:複数人で管理できる・複数端末で可能・紛失しない
- デメリット:個人で使うには勿体無い・記録を忘れそう
無料で使えるものとしてオススメなのは「haccplog」というサイトです。
クラウド上で管理出来るので複数人の従業員がいる場合、管理が楽になりそうですね。
アプリで管理する
アプリはダスキンが出している「Hygiene support」がオススメです。実際にわたしも利用しています。
アプリで管理する特徴はこんな感じ。
- メリット:スマホで操作・通知してくれる・感覚的
- デメリット:通知がうるさい
通知がうるさいのは完全に個人的な主観です。本来は便利機能ですw
毎日15時と18時に通知がくるように設定しています。(設定しているくせに通知がうるさいとか単なるわがままw)
このアプリは手引書に準拠してセットされています。
LINEのような画面で入力でき、登録内容のカスタムも可能。
自分が管理しやすいと思うもので準備してみてください。
食中毒対策について知っておこう
衛生管理というものを作る最大の目的が「食中毒の予防」。
食中毒については毎年夏ごろ行われる講習会で多くの時間を割いている項目です。
食中毒を発生させてしまうと営業停止になる場合もあるし、お店のイメージにもかなり関わってきます。予防すべく知識をつけておきましょう。
ポイントとしては3つ。サクっといきましょう。
細菌の増殖と温度
パンといえば発酵して完成するもの。菌を増殖することで生地を膨らませます。
発酵のベストな温度は30-40℃。
裏を返すと細菌のベスト温度も同じ30-40℃。普段は味方である温度が時に敵になります。
細菌は65℃以上で死滅します。
パンを焼く際に十分な時間をかけて焼成出来ればよっぽど対策は出来ます。
温度とは別の話になりますが、はちみつを使用するパンの場合も注意が必要です。
ボツリヌス菌の感染の恐れがありますので、原則1歳未満の乳児にはちみつは禁忌となります。
いろいろな育児書にも記載されているのでお母さんたちは理解されていると思います。
時々「赤ちゃんでも食べられるパンはありますか?」と聞かれることがあるので答えられるようにしておきましょう。
食中毒防止3原則
こちらは講習会でもよく出てくる言葉。
- つけない
- ふやさない
- やっつける
つけないというのは「手洗い」や「食品の区分を行う」ということ。触れない。
増やさないというのは「低温保存」。生ぬるい温度は細菌の温床になります。
やっつけるというのは「中心部75℃、1分以上の加熱処理」。
焼成後のパンの取り扱い
パンの焼成は基本的に130℃以上10分以上は加熱します。
そのため焼成するところまでで細菌などは死滅します。
が、この後が注意です。
素手で焼き上げた後のパンを触った場合は完全にスタートに逆戻り。
焼き上げた商品は手袋をつけて袋に入れていきましょう。
イベント出店などで後から袋入れをするパン屋さんもいらっしゃいますが、ご時世的にも、衛生的にも不安なので可能な限り個包装する方が自分の身を守るためかと思います。
食中毒だけでなく、アレルギーに関しても基礎知識はつけておくようにしましょう。
今回のまとめ
今回は『パン屋として知っておきたいHACCPの話』ということでHACCPの概要から資料作り、食中毒についてまでを解説しました。
- HACCPって何?
- パン製造における衛生管理とは
- 記録に残す媒体を決めよう
- 食中毒について知っておこう
実はこのHACCP。2018年ごろから食品衛生講習会でたびたび話をされていました。
が、「これは大きいお店とか工場が対象だわな」なんてスルーしてきておりました。
きっとそんなお店の方も多いのではないでしょうか。
2021年6月に衛生管理が義務化されて、工房許可の更新のハガキが届いたときに「やばー!!」と慌てて勉強しなおしたのは記憶に新しい話w
調べていて感じたのは
- 衛生管理についてごく基礎的なことを理解して、
- 自分用の資料としてまとめて、
- 記録として残しておけばいい ということでした。
これを機に「よし、HACCPについて向き合ってみるか!」という方がいれば嬉しいです。
以前にまとめた記事もありますのでそちらもご参考ください。(内容は一部重複しています)