早いものでもう6月。今年もまもなく夏がやってきます!
夏……ということは?毎年とある講習会を受講していた時期。
そう。「食品衛生実務講習会」
数年前に名称が変わってからは通年で講習会が開催されるようになりました。わたしの住む自治体では毎年6月初旬から、その年のオンライン受講ができるようになります。
今年も受講しましたので、今回は概要をまとめていきます。
工房の取得後にやること
まずは復習からまいりましょう。
パン工房をはじめるために必要な条件を覚えていますか?
- 菓子製造業許可を取得した厨房
- 食品衛生責任者を1人以上配置する
これまで何度かお伝えしてきましたね。
今回は「食品衛生責任者」に焦点を当てます。
食品衛生責任者をひとことでまとめると”施設の衛生管理の担い手”。
衛生管理は、例えば食中毒・食品表示・HACCPなどについての知識を蓄えておき、それを実践・記録していくことが必要になります。
食品を扱うためには食品衛生責任者を定めることが決められています。
どんな人がなれるかというと…次のような資格がある人。
このうち一番ハードルが低いのが、最後の「食品衛生責任者養成講習会の修了者」。
それゆえ誰でもなることができると、中には意識の低い方もいたりするのです。
食品衛生責任者の役割は次の通り。
なんだかごちゃごちゃ書いてありますが、要は「定期的に受講し、新たな知見の習得に努めてね」みたいな意味です。
つまりこういうこと。
菓子製造業許可を取得後は定期的に講習会に参加しよう!
また講習会だけでなく、定期的な検便も大切になります。
検便を行う理由は以下の2点。
- 調理や食品製造に関わる方の健康状態を確かめる
- 食中毒菌の「不顕性感染者」を見つけ出すこと
不顕性感染者とは食中毒菌を保菌(感染)しているのに発症していない人を指します。
不顕性感染者は本人に症状がないため、自覚していません。そのため長期にわたり食中毒菌を周りに広げてしまうリスクがあります。
これを見つけ出すのが「定期的な検便」。
検便の対象者は「食品関係に従事する人、全員」。アルバイトやパートも含みます。
自治体の保健所からの案内が届きますので、それに従い検査を行います。
食品衛生実務講習会とは
ここからは講習会の話に戻りましょう。
食品衛生責任者が定期的に受講する講習会が「食品衛生実務講習会」。
食品衛生法改正に伴い、それまでは夏期講習会とされていたものが年間通して開催されることになりました。
対象者は以下の通り。
- 食品衛生責任者
- 食品衛生管理者
- 食品関係営業者又は事業者
受講回数は自治体により異なります。
例えば東京都。そもそも母数が多いため、かなり内容にばらつきがありました。
大田区の資料がわかりやすかったので今回例に出します。
- 飲食店(仕出し屋、弁当や、すし屋、集団給食)
- 営業の届出に該当する集団給食
- 大量調理施設
は各年度内に1回以上参加する必要があります。
それ以外は個人の飲食店は3年に1回以上。
……ん?結構期間が空くね?
札幌市では許可の年数以内に1回以上。受ける意味よ…。しかも有料です。名古屋市も有料。
神奈川県や福岡県では動画を視聴したら電子申請システムから受講の届出をするシステム。
わたしが住む自治体では毎年1回以上受講する必要があります。
集合研修とWEB講習から選ぶことができ、昨年度からわたしはWEBで受講しています。
申し込み後に動画を視聴し、受講証のダウンロードと簡単なアンケートに回答して終了しました(画像は今年の受講した記録です)。
年に1回のことですし、食品を扱う以上は定期的な受講をオススメします。
令和6年度の講習会内容
ここからはわたしが今年受講した内容をざっくりまとめていきます。
あくまで「まとめ」の意味合いでご覧くださいね。
今年の内容は大きく分けて4つ。
- 食中毒について
- 営業許可制度等の変更について
- NEWトピックス
- HACCPについて
ありがたいですね、トピックスが用意されてましたw
ここでは上3つについて簡単にまとめていきます。
HACCPについては次の項目で解説します。
食中毒について
毎年、前年度の食中毒の状況が全国版と県内版で報告されます。
2023年の食中毒 病因物質別発生状況は以下の通り。
病因物質はいろいろありますが、
- ノロウイルス
- アニサキス
- カンピロバクター
- サルモネラ菌
- 黄色ブドウ球菌 あたりが多く挙げられます。
患者数が多いのはノロウイルス。菓子製造業許可として関係がありそうなのはノロ以外だとサルモネラ菌あたりでしょうか。
それぞれまとめておきましょう。
ノロウイルスは言わずもがな。知らず知らずに広めていることも多いとか。
体調が悪いときに無理をしないもの大切ですね。
サルモネラ菌に関しては卵がポイント。
卵はメロンパンやカスタードクリーム、プリンなどでパンやお菓子によく使われます。
予防できることとしては加熱のほか、手袋の着用や身の丈にあった仕込みとなります。
講習会の中で、能力を超えた受注数でサルモネラ食中毒が発生した事例が紹介されていました。こちらはだし巻き卵が割り置きされていたとのこと。
製造者もいっぱいいっぱいで調理器具の洗浄や使い分けが不十分だったようです。
季節問わず、無理な仕込みはやめましょう。
すべての予防法に「健康チェック」と「手洗い」があります。
また手袋の着用も大切。黄色ブドウ球菌は手の傷などから感染しますから、その意味でも手袋は着用するようにしましょう。
ただし手袋も何日もつけたらほぼ無意味なので毎回捨てましょうね(もちろん掃除用として残しておくなどはオッケー)。
正しい手洗いについては厚生労働省より資料がありますので、載せておきます(厚生労働省HPより)。
営業許可制度等の変更について
食品衛生法の改正に伴い、営業許可の種類が34から32に変更になりました。
こちらは毎年お知らせに入っています。
冷凍に関する部分もわかりやすくなっています。
「複合型冷凍食品製造業」というのがひとつポイント。
詳しくはこちらの記事で解説していますので、ご確認ください。
ざっくりお伝えすると「HACCPに基づく衛生管理の実施を前提として、菓子・麺類・水産製品(魚肉練り製品を除く)の冷凍品の製造、食肉の処理にあたっての追加の許可不要」となっています。
ん?よくわからんぞ?と思うかもしれませんが、これは菓子製造業としてパンを製造・冷凍して発送が可能という意味。
ただし、HACCPでの衛生管理はやりましょ!です。
他には厨房の施設基準ですかね。
「調理場内の手洗器は、手洗い後の手指の再汚染を防止できる構造であること」となり、手で閉める蛇口タイプが認められなくなりました。
現在、許可更新前で蛇口タイプの方は許可更新に間に合うように変更してください。現実的には「レバーハンドル」に変更が一番簡単かと思います。
NEWトピックス
こちらは3項目ありました。
- 食物アレルギー表示に関する情報
- 期限表示について
- 野生鳥獣(ジビエ)の提供について
このうち最後のお肉の話題は割愛します。残り2つをみていきましょう。
食物アレルギー表示について
こちらは見直しがいくつかありました。
アレルギーについても別の記事で解説しています。
期限表示について
こちらはポイントをすでにまとめてくれていました。
- 期限設定は製造者の責任です
- 無理な製造はやめましょう
以前の大規模イベントでの食中毒事案が挙げられていました。
こちらも記事にしていますのでご確認ください。
要は『身の丈にあった製造方法と量にして、自分とお客さんの身を守ろうね』ということ。何かあってからでは遅いですから、日頃から自身を客観視することも大切かと思います。
これから夏に入り、警戒する時期にはなります。でも実は涼しい季節の方が油断するのかもしれません。
食品表示についてわからないことがあれば管轄の自治体に相談がベスト。許可を取得している自治体に確認をしてみましょう。
HACCP、してますか?
平成30年6月の食品衛生法改正に伴い、「HACCPに沿った衛生管理」が制定されました。
措置期間を経て、令和3年6月からは原則すべての食品関係事業者に対して義務化。最初の制定から5年が経ち、2024年1月に少し改訂されました。
- 振り返りの実施を追加
- サラダチキン(低温調理)の例を追加
- 生食用牛肉の提供について
上2つをまとめていきます。
HACCPとは?
HACCPとは「安全な食品を作るための衛生管理の方法」。
難しいことではありませんので、しっかり準備しておきましょう。
HACCPの管理にも2種類あります。
このうちわたしのようなちいさなパン屋は「小規模事業者」に該当します。「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を行いましょう。
大規模事業者はもっと規定が細かくなるのですが、小規模事業者はもう少し簡易的に管理してもいいよーとのこと。
厚生労働省が「HACCPの考え方を取り入れた 衛生管理の手引書」を出していますので参考にするといいでしょう。このうちパン屋は「パン類の製造における食品衛生管理の手引書」が参考になるかと思います。
振り返り項目の追加
2024年1月の改訂で”振り返り”の項目が追加されました。
定期的に記録の振り返りを行い、衛生上問題がなかったかを確認しましょう!というものになります。
各種様式が日本食品衛生協会のホームページからダウンロード可能です。
サラダチキンの文面追加
またサラダチキン等の低温調理についても追加がありました。
これはHACCPの重要管理計画の「冷却後、加熱するもの」の部分です。
パン屋が関係する事例ではサンドイッチにあたると思いますが、そもそも”食事系”のサンドイッチは飲食店許可の範疇となります。そのため厳密にいえば菓子製造業許可の範囲外です。
一応お伝えしておくと、低温調理の場合は「中心部の温度が63℃で30分以上の加熱が必要」とのこと。
- 問題があったときは加熱を延長するか提供をしない
- 速やかに冷却ができなかった場合は提供しない が対策となります。
もうひとつの生食用牛肉の提供については「加工基準や調理基準を遵守していない生食用牛肉の提供禁止」となります。
この部分は焼肉屋さんに関係しますかね。パン屋としては割愛します。
HACCP対策は1冊目の電子書籍の特典としても配布しています。
今回改訂された部分も修正・追加していますので、前に特典を受け取った方は特典リンクからご確認をお願いします。
振り返りシートも追加しておきました。
これらを書面として作っておき、営業許可更新時には保健所に伝えます。もし健康被害や異物混入などが起きたときはすみやかに保健所に報告するようにしましょう。
今回のまとめ
今回は今年の食品衛生実務講習会の総まとめをしてみました。
今年はアレルギー品目に変更がありました。わたしの場合、パン生地にマカダミアナッツオイルを使用しています。
今後は表記が必須になりますね。
食品衛生は肉眼で見えるような対策ができません。
だからこそ日頃の管理と情報収集が重要。
対策をして楽しくパンを焼いていきましょう!