前々回・前回に引き続き、パンの素材選びのコツを解説していきます。
前回は小麦粉と酵母でしたね。この2つは風味を決める超土台になるもの。
今回は「水と塩」。そのほかの材料もサラッとですがご紹介します。
水と塩。
パン作りにおいてこの2つがなければそもそも形にならないし、味がない。しかもそのへんに普通にあるものだから、あんまり深く考えたりしないですよね。
なのでこの記事で改めておさらいしていきましょう。
水:焼きたいパンで決める
お水といえば人体を構成する上でも欠かせないものですが、パンを作る上でも同じくらいに欠かせないもの。
形を作るためにも必要なのですが、小麦粉に含まれる成分をはたらかせるためにもかなり重要な役割を担っています。
考えてみたら当たり前のことなんですが、この当たり前のことなのに意外と何にも考えずに材料として準備していたりします。
改めてお水には感謝しておきましょう。
いつもありがとう!
で、パン作りに適した水はあるの?という部分。
日本はそもそも水道水を飲むことができます(もちろん浄化してあるものですが)。なので浄水器などで浄化した水で十分です。
海外ほどお水にこだわらなくても美味しいパンが焼けちゃう日本。最高ですね。
日本のお水は「軟水」です。
お水には「硬度」があります。硬度とは、水に含まれるミネラルのうちカルシウムとマグネシウムの含有量。
表でまとめてみました。
日本の水は硬度50mg/l前後。つまり軟水です。
日本の中でも硬水の地域もありまして、よく知られているのが「宮古島」。
年末に訪れたのですが自販機で売られているお水にわざわざ「宮古島の硬水」なんて書かれていたり、「このお水は軟水です」みたいな表記もありました。
夫が赴任している上海も硬水。確かに髪の毛を洗うといつもとはちょっと違う感じ。
ハワイなんかはキシキシになりましたw
味も結構違うんですよ。日本でよく売られているものとしては「エビアン」。
すこーし舌にもたつく感じがしますよね。エビアンは硬度が300mg/l前後。
ちなみにボルヴィックは硬度60mg/lほど。確かに飲みやすい。
そして硬水といえば…「コントレックス」や「クールマイヨール」。硬度は1000mg/lをゆうに超えます。
飲んだらわかります。舌にミネラルがつく感じwマグネシウムが含まれているため、大抵の場合は便がゆるくなります。そのためか、いっときブームになったことがありますよね。もちろん波に乗りましたが、腹を壊したためやめましたw
飲むだけでわかるわけですから、パンに入れて変わらないわけがありません。
パン作りしやすい水は硬度40-120mg/lくらいが適していると言われています。
味でいうと、軟水はあっさり。硬度が上がるにつれてどっしり。そして舌にしばらく居座る感じ。
海外ではパンがハードなことも多いですよね。あれはこういったその土地の水を使用しているから。
小麦粉などに比べて1本単位で購入できるので自由研究などで作り比べてみてもいいかもしれません。
個人的にはやはりザ・日本の天然水を使うのが好きです。
塩:一番気を遣う繊細な子
続いて「塩」のお話にまいりましょう。
以前こちらの記事を更新しました。
一度だけ塩を入れ忘れたことがあります。いつも通りに仕込み、いつも通りに焼き上げた。
まったく気づくことなく発送したのですが、お客さんが気づいてくれたことがあります。
端数であったパンを食べて思ったこと。
まっっっっず!
味がない。味に締まりもない。美味しくない。それ以降、塩は調味料の最初に入れて指差し確認もするようにしています。
そのくらい塩は大切。
そう。塩の役割は「生地を締め、パンの味を決める」ことです。
使用する量は数グラムなのに、影響は計り知れないほどなんですね。
個人的には『塩こそこだわれ』と思っています。
というのも塩には種類があります。
それぞれ役割をまとめました。
精製塩
「食卓塩」などと呼ばれており、ミネラル分が取り除かれているもの。
主成分は99%が塩化ナトリウム。少量でもしょっぱいので、使う量には注意が必要。
よく「高血圧には減塩」と言いますが、ミネラルが含まれた塩はむしろ血圧を下げる効果があると言われています。
できれば精製塩以外のお塩を生活に取り入れるようにしましょう。
岩塩
地殻変動により、陸地に閉じ込められた海水が干上がって塩分が結晶化したもの。
海塩に比べるとミネラル分は少ないですが、料理の締めに使うことがよくあります。
フォカッチャなどに使ってもいいかなと。
海塩
海水を原料とし、天日干しや平釜で煮詰めるなどの製法によって結晶化された塩のこと。
ミネラルが豊富で塩単体でも味わいがあります。
食塩のパッケージには原材料名として「海水」など記載されています。
個人的な感想ですが、混ぜ込む基礎の塩は「海塩」。トッピングなどで「岩塩」を使うといいですね。
精製塩は基本的に使わないようにしています。というか、美味しい海塩を知ってしまうと精製塩には正直戻れません。
試しに精製塩と海塩とで食べ比べてみると雲泥の差が出るかなと思います。
海塩の中でも「天日海塩」もしくは「釜焚き塩」と書いてあるものはミネラルが豊富です。
普段の料理から海塩を使うと健康にもいいですのでぜひ海塩を生活に取り入れてみてください。
ふくらみなどに大きな影響はあまりないです。ただ味はずいぶんと違うので、縁の下の力持ちってやつですね。
個性を出す副材料たち
ここまではパンの土台である「小麦粉・酵母・水・塩」についてその役割と特徴をお伝えしてきました。
ここからはパンの個性を出すための副材料のお話。
「砂糖」と「油脂」、「卵」、「牛乳」について深ぼっていきましょう。それぞれ解説していきます。
砂糖
そういえばまだ砂糖が出てきていませんよね。
実は砂糖、使わなくてもパンにはなります。食事系のパンは砂糖不使用なことが多いです。
フォカッチャ、バケット、エピなどですね。
ただお伝えしている通り、日本はやわらかふんわりの甘めのパンが多め。なので砂糖は結構使われています。
砂糖にも種類があります。
このうち生地の中に入れるのは上白糖と三温糖。グラニュー糖と粉砂糖はトッピングで使われることが多いです。
小麦粉も製粉されているように、砂糖も精製されたものは白い。なので上白糖はガッツリ甘めなパンを焼くときに使われます。
三温糖やきび砂糖など茶色いお砂糖は甘さがマイルド。またミネラルも多少なりとも残しているので、個人的には茶色いお砂糖派だったりします。
特にメロンパンのクッキー生地。上白糖で作ると甘くてちょっと苦手。
わたしはトッピングを除き、砂糖を使う場面ではきび砂糖を使用しています。
砂糖は発酵を促進する効果がある反面、多く入れすぎると発酵を妨げます。
イーストで仕込むパンを焼かれる場合、砂糖をはちみつに置き換えるなら高糖分用のイーストを使用しましょう(商品名でいうと「金サフ」)。
油脂
油脂は「油」のこと。
油脂を加えることで風味が変わったり、加熱時の生地の伸びが良くなります。
ノンオイルのパンより乾燥しにくいのも特徴です。
種類は大きく分けて2種類。
- 液体油脂:オリーブオイル、セサミオイル、こめ油など
- 固形油脂:バター、マーガリン、ショートニング、ラードなど
液体油脂を使うなら万能なのは「こめ油」、あっさりさせたいなら「セサミオイル」、惣菜系のパンなら「オリーブオイル」がオススメ。
わたしはちょっと高いですが、マカダミアナッツオイルを使っています。こめ油ほどあっさりしておらず、生地に重みが出るのが好みです。
固形油脂は身体への影響を考えてバターのみ使用。しかも生地に使うのではなく、トッピングやフィリングがほとんど。
マーガリンなどは確かに安いのですが、身体にはあまりよろしくありません。
バターを使うときは溶かし過ぎに注意。とろとろのバターは風味が落ちます。
室温でやわらかくなるのを待つか、レンジと短時間の格闘をするか。それはお任せします。
卵
卵はパン生地に風味を与えます。また乾燥を防ぎ、色もパンらしい感じになりますよね。
ただ卵白が多いとパサつきやすいので、生地に加えるなら卵黄優先の方がいいでしょう。
わたし自身は卵アレルギーがあるので味見することはないのですが、産地や飼料などで味も違うかと思います。
食べ比べてみて、ベストな卵を見つけましょう。
牛乳
最後は牛乳。牛乳には乳糖が含まれており、加熱により糖分がカラメル化して焼き色が少し濃くなります。ということは焼き上げの温度に注意が必要です。
特にお尻の形をしたしろぱん。あれは焼き色が付いたらしろぱんではなくなります。
低温といっても130℃前後ですがそのくらいでじっくり焼き上げていきます。
牛乳繋がりで豆乳もよく生地につかわれます。豆乳も糖分を含んでいるため同じく焼き色は注意。
そしてどちらも水に比べるとその他の成分が含まれていることから、10-15%ほど量を増やさないと生地がカチカチになります。
また基本は冷蔵庫で保管するため、冬にいざ仕込もう!と思うと冷たい。
冬に仕込む場合はお湯を少量入れるかレンジで40℃いくかどうかくらいまで温めましょう。
普段の気温の仕込みで硬いなと思ったら少し水を混ぜるなどしても扱いやすくなります。説明だけでは伝わらないと思うので、何度か挑戦してみてベストな温度を見つけましょう。
その他のフィリング
パンの幅を広げるには「フィリング」も大切。
混ぜ込む系ならドライフルーツ、ハーブ、チョコ、ナッツなどですね。
日本のパンなら包み込む系。あんこ、カレー、クリーム、クッキー生地など。
富澤商店やCottaなどで販売されているものであれば、基本的にパンに混ぜることができます。
自分の好きなハーブを組み合わせてフォカッチャを焼いたり、柑橘系などを組み合わせてベーグルを焼いたり。抹茶やココアを混ぜてもいいですよね。
季節に合わせた食材は販売するときにも花形になりますので、そういったものも増やしていきましょう。
自分目線で組み合わせる
やーっっとすべての材料が終わりました。
さて、問題はここからです。
何をどう組み合わせるのか。
ひとつアドバイスをお伝えするなら「とにかくたくさん焼く」でしょうか。
正直小麦粉は最初どれがいいとかいえません。
名前が気になるな、地元の小麦粉使おうかな、とりあえず有名なやつから。
こんな感じでなんでもいいと思います。
お試しなら500gから1kgくらい買うとホームベーカリーなら3.4回くらい焼けます。
その間に気になる小麦粉を見つけたらちょっと混ぜてみる、みたいな。
調味料なども同じです。一旦は普段使いのもので焼いてみる。ちょっと塩が強いなら変えてみる。
水の量を増やしてみてもいいし、酵母の量や種類を変えてみる。
何回も、何十回も、何百回も焼いてようやく「お気に入り」の生地が見つかる。
それがまずは『基本の生地』。
そこからはオイルを変えてみたり、フィリングを変えてみましょう。
強力粉から準強力粉に変えると一気にハード系に。そうすると基本の生地に+αの素材が見つかりますよね。
こうしてわたしも基本の5つの生地が出来上がりました。
何度も食パンやバケットを焼いたりしたのですが自分の好きな生地がもちもち系だったので「販売はもちもち系専門にしよう」となり、今に至ります。
『まずは自分が食べたいパンを焼く』
そこから少しずつ変わっていきます。
幸いなことに材料は少量で売られています。ちょっとずつ味見するつもりでぜひ試してみてくださいね。
今回のまとめ
今回は「どんな材料使ってる?パンの素材選びのコツ」と題して、水・塩、その他副材料について解説してきました。
最近「なぜパンにハマったのか」を考えてみました。すると先ほどお伝えしたようにたまたまが重なっただけっぽいんです。
化学変化系のものが好き、テトリスが大好き、試すのが好き。
これらがあのときちょうどわたしにハマった。違うものであったならきっとパン屋にはなっていなかったでしょう。
飽き性なのに続くことがある理由はそういうこと。
そう思うと自分を知るって結構大事ですよね。
パン作り、知れば知るほど奥が深く、正解がない。
ぜひ楽しく、実験がてらいろいろ焼いてみてください。その上で「成分」などに目を向けるとさらに面白くなりますよ♪